5. サンタクロース危うし! -1
さて、翌日の日曜日。
僕が岩田から例のトナカイのような面を借りて彼女の部屋に戻ると、
彼女は電話中だった。
「えー。なんか思いあたる物もないの?」
パジャマにカーディガンを羽織ったままの格好で、ベッドの端に腰掛けて困ったような顔で話している。
「ん〜、どうしよっかなぁ。じゃあ、今子供達の間で流行ってる遊びとか、アニメとかは?
・・・ああ、・・・そうなんだ。」
どうやら相手はお姉さんらしい。
多分内容はクリスマスプレゼントの中身のことだ。
「うん、前日には買いに行くから・・・。あたしも考えるけど、何かヒントがあれば・・・うん。
じゃあ、またね。」
電話を切った彼女は、短いため息をついた。
「ただいま。」
「あ、おかえり。あ〜ん、どうしよ〜。」
「プレゼント、何が欲しいかわからないって?」
「そうなの。いつもならお姉ちゃんが『サンタさんにお母さんが言っておいてあげるから』って
言って何がいいか聞いてるのね。でも、みかのほうが
『もしホントにサンタがいるなら言わなくてもわかるはずだから、言わない!』って教えてくれないんだって。」
「そう来たか。」
「お姉ちゃんの話だと、まゆみはたとえサンタの正体がお父さんであろうとプレゼントは欲しいんだと思うの。
でも、みかはプレゼント自体欲しくないって言うんだって。普通子供だったらプレゼントは欲しいと思うのよね〜。」
「みかちゃんがプレゼントをもらいたくない理由・・・
サンタさんには来てほしくないってことか?」
「・・・行かないほうがいいのかなぁ?」
「いや、待てよ。ハナからサンタはお父さんだと思ってるってことは、
何がいいか言わなくったってお父さんがプレゼントを用意することはわかってるんだよな。
それを欲しくないって言うんだから、ほかに理由があるんじゃないか?」
「たとえば〜?」
「お父さんとけんかしたとか?」
「それはないって。今日もお父さんと動物園行ってるって言ってたもん。」
「う〜ん、じゃあ・・・本気で試してるんじゃないかな?」
「ホントのサンタが来るのを少しは期待してるってこと?」
「・・・かもしれない。でもプレゼントを欲しくないって言うのは。別の理由があるのかもしれないなぁ。
サンタさんには来てほしい けど プレゼントは欲しくない ってことか。」
「えっ、じゃあサンタは『来たけどプレゼントは持ってこなかったよ』って言うの?
それもまたどうなのさー。」
「うーん・・・・・。みかちゃんの本当に欲しいものは物じゃないんじゃないか?」
「え、たとえば?」
「・・・『愛』とか?」
「ば〜〜〜か。」
僕らは考えに考えたが、その謎を解くことができなかった。
ここに来てサンタクロース計画は危機を迎えたかに見えた。
ところが。
クリスマスイブ前日の祝日の朝、彼女の家に宅配便が届いた。
お姉さんからだ。
中にはきれいに包装されたプレゼントが3つと、手紙が入っていた。
僕らはそれを読んで全てを理解した。
いや、みかちゃんはあくまで何が欲しいかを言わなかったそうなので、
正確にはお姉さんの予想に賭けてみることになったのだけれど。
明日はいよいよクリスマスイブだ!
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