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4. サンタクロースの秘密

真夜中、額に乗せたぬれタオルを取り替えてやろうと手をのばしたら、
彼女がぼんやり目を開けた。
「具合、どうだ?」
「うん。だいぶ汗かいたから楽になった。」
僕は彼女の額に手をあてる。
「ん、熱下がったみたいだ。よかった、よかった。」
「ねえ、トナカイ・・・岩田さんなんて?」
「ああ、明日借りられる事になったから取りに行ってくるよ。心配しないでおやすみ。」
「よかったぁ。ありがとう。」

僕は彼女がいつもの調子で
「どんなトナカイだった?着ぐるみショーみたいな、いかにも子供だましなやつはダメよ」とかなんとか
またつっこんでくるのではないかと予想していた。
かといって、僕がトナカイだと記憶していたアレが実は鹿だったなんて知ったら、
今すぐ起き出して作業を続けかねない。それもまた容易に予想できたので、
聞かれてもごまかすつもりだったのだけれど・・・。

僕は気になっていた事を切り出すことにした。
「ひとつ聞いてもいいか?」
「うん。なに?」
「なんでそんな無理までしてサンタクロースにこだわるの?」

そうなのだ。確かに彼女はいつも凝り性でガンコなんだけど、
ムリな計画をたてたりするタイプではないのだ。

それが、今回だけは様子がちがう。

「・・・あのね・・・笑わない?」
「うん、笑わない!」
僕はできるだけ真剣な面持ちで彼女の方に向き直る。
「・・・あたしもね、小学校の2年生くらいまではサンタクロースが本当にいて
プレゼントを枕もとに置いていってくれてるんだって信じてたのね。
でも、小2にもなるとさ、クラスに1人は『あれってホントは父さんが置いてるんだぜ』とか
頼みもしないのに教えてくれる男子生徒とかいるじゃない?
だから、薄々感づいてはいたの。
でもね、それを両親に言ったりはしなかった。」
「プレゼントもらえなくなると思ったんだろ〜?」
「ふふふ、それもあるかな〜。でもね、なんていうか、そういう事よりももっと大事な
見えない何かが壊れてしまいそうな気がしてたの。
それって今考えると何なのかはっきり言葉にはできないんだけど。
あれ、小学校5年生の時だったかなぁ。イブの日にね、友達の家のクリスマスパーティーから
帰ってきて、お母さんとこたつにあたってた時だった。
あたしが『今年もサンタさん来てくれるかなぁ』って言ったらね、
お母さん、急に真剣な顔になって『あのね、ゆうちゃん、サンタさんは本当はいなくって
お父さんがプレゼントを置いてくれてたのよ。』って・・・。
お母さんは5年生にもなった娘がいつまでもサンタクロースを信じてるのを見て
この先バカにされても可哀想だと心配したんだと思う。」
「うん。」

「それはその時のあたしにも解った。でもね、あたし泣いちゃったの。
 『知ってたけど、言わないでほしかった』って、わんわん泣いた。
 大事なものが壊れる気がしたのねーーー。」

僕は 小さな彼女がこたつに座ってわんわん泣いてるところを想像して、
そのかわいらしさに少しだけ笑ってしまった。

「あ〜、笑わないって約束したのにぃ。」
「ごめんごめん。おかしくて笑ったんじゃないってば。
 かわいいな、と思って。」
「・・・うー。」
「それでムリにでもみかちゃん達のサンタクロースをやろうと思ったのか。」
「・・・自分でもね、何でここまでサンタにこだわるのか、正直よくわからないの。
でも、なんだかね、子供の時間が終わっちゃうっていうか・・・。
子供の頃にしか見ることのできない大事な何かを簡単に失ってほしくないような、そんな感じがして。」

彼女は喋り疲れたのか、そのまま溶けるようにすぅっとまた眠りに入ってしまった。
僕はその顔を、少しだけ笑ったまましばらく眺めていた。

 
 
5.へつづく >>>